認知症義母との二人生活

介護を放棄した義弟夫婦に代わって、義母を見守ることになった50代男の話です。

対抗措置と疑惑

義弟夫婦が夜逃げのように出て行ってしまったあと、とりあえず義母の居住部分の物干し部屋のようなところを仕事のスペースにし、夜は仏間に布団をしいて寝ることにした。義母は事情がよく飲み込めず憔悴しきっている。簡単な食事をつくってやり、色々と話をする。子供の話や、昔話で話題をつなぐが、結局義弟夫婦はどこにいったんだという話になる。「会社のそばに部屋を借りてそこに住むことになった」同じ話を一晩で20回ほど繰り返すことになった。

義母が寝た後、すこし仕事のチェックをしようと思ったが、いやがらせで義弟がネットを解約し、電話も持って行ってしまったのでテザリングで仕事をする羽目になる。

「くそー、やはり徹底的にやろう」

 

翌日、パパ友の弁護士に電話した。

「ご無沙汰してます。保育園、学童でご一緒したKです」

「はいはい、こちらこそご無沙汰してます」

「実は親族間でもめていてまして...」

これまでの経緯を説明し、義母の家の権利関係を付け加えた。

相談のポイントは2つ。

義弟の出て行った二階の部屋を義弟の同意なく使用して良いか

・今後面倒なことが起きないように成年後見制度を利用するにはどうしたら良いか

 

「義母さんが建物の所有者として一部でも登記されていれば、義母さんの許可で二階を占有、使用することはできます。義弟に所有権があっても抗弁できません。また損害賠償を求められても、自分で出て行ったのですから大丈夫でしょう。とりあえず使ってしまって向こうが訴えてきたら、こちらで措置をとるということでどうでしょう」

義母の家は、土地は義母のもので建物を義母と義弟が二分の一づつ所有している。

成年後見制度は親族にこうした対立がある場合、裁判所は後見人に弁護士か司法書士を選任します。するとお金もかかるので、もうすこし先でもいいのではないでしょうか」

さすがプロである。

「なるほどありがとうございます。ところで相談料ってどんな感じですか?」

「水くさいなあ。私の方で具体的に動くことになってからでいいですよ。頑張って下さい」

電話を切った後、念のため法務局へ向かった。義母の家の土地と建物の登記簿を取るとやはり、土地は義母の所有、建物が義母と義弟が二分の一、そして銀行の保証会社の抵当が付いていた。

これで安心して対抗措置に入れる。最初にしたのは鍵屋に電話をかけることであった。

鍵屋は1時間ほどでやってきた。

「玄関と勝手口のシリンダーを交換してくれ」

鍵屋は玄関と勝手口の鍵を調べると、

「玄関は2万5000円ですね。ここからは独り言ですけれど、勝手口のシリンダーはセキュリティ上の弱点になっているので使えなくするのがいいと思います。楊枝を鍵穴に入れて折ってしまえばOKです」こちらもさすがプロである。交換は5分で終わった。

対抗措置の第一弾完了。これで義弟は家に入れなくなった。

 

義母との生活は朝食事を用意し、デイサービスに送り出し、戻ったら夕飯というシンプルなものだ。温かい食事を用意し、根気強く同じ話につきあうことで義母はだいぶ元気になってきた。義弟夫婦とは一緒に食事もしていなかったようで、ネグレクト状態だったらしい。

義母の繰り返す同じ話の中で、「おとうさんの株券はどこいったんだろう?」というのがかなり頻度が高い。その度に「お母さん、もう株券制度は廃止されて株券は無くなったの。証券会社で株の持ち主としてしっかり登録されてるから大丈夫だよ」とはいうもののどこの証券会社に預けてるんだ?某大手印刷会社から義母宛に株主向けの来年のカレンダーが届いているので義母が株主であることは間違いないようだ。義弟からの申し送りはない。

そんなある日、メガバンク系の証券会社から 電話がかかってきた。